幸せのクローバー


 

「あかねちゃんのお母さんね、ご病気だったのよ」

 

 

母親が涙を流すのを眺めながら、らんまはぼんやりと考えている。

 

あかねは一度もそんな事、言ってなかった。

あかねが自分の母ちゃんの話をしたのは、のどかに母親に似ていると言われてとても嬉しそうだったあの時だけだ。

 

 

「あかね、おかーさんみたいになりたい」

 

 

すごく嬉しそうにあかねは言ってた。

おれも分かる。

 

だっておれも母ちゃんが大好きだから、似てると言われたらすごく嬉しい。

 

 

「なあ母ちゃん、なくなるってなんだ?」

「・・・亡くなるっていうのは、死ぬってことね」

 

 

「死ぬってどうなっちゃうんだ?消えちゃうってこと?」

 

 

のどかは割烹着の裾で流れている涙を拭うと、小さならんまを膝に乗せて見つめ合った。

 

 

「お母さんもまだ死んだことがないから、どうなっちゃうのかは分からないの」

「そっか」

 

「うん。ただ死んじゃったら生きてる人たちはもう会えなくなるわね」

 

「じゃああかねも?もうあかねの母ちゃんには会えないの?」

 

 

「・・・・・・そうね」

「そっか・・・・・・」

 

 

自分がもし今、母ちゃんに死なれちゃったらどんなだろう?

という事を考えた瞬間にただ恐怖しか降りてこなかった。

 

真っ暗な闇の何も分からない、ただの深い恐怖。

 

 

 

 

「・・・母ちゃん・・・あかねは悲しいよな・・・かわいそう」

 

ぎゅっと自分の母親の生を確かめるように、らんまはのどかの身体に強くすがった。

 

 

「きっとすごく悲しいわね・・・でも」

 

のどかは娘の不安を和らげるように抱き返す。

 

 

「あかねちゃんはかわいそうではないわね」

 

「なんで?だって母ちゃんが死んじゃったんだよ?」

 

「らんま。人はいつかみんな死ぬのよ」

 

 

「・・・おれも?母ちゃんも?」

「そう、みんなそう」

「・・・おれ死にたくない。母ちゃんが死ぬのもやだ」

 

 

「でもみんな同じなの。生まれてきたら必ず死ぬのよ」

「だからあかねはかわいそうじゃないの?」

 

 

「らんま、かわいそうっていう言葉はね、自分と人の幸せを比べてしまう事よ」

「うーーーーん・・・?わかんねえ」

 

 

「そうね、ちょっと難しい事ね。でもらんま、あかねちゃんはかわいそうな子ではないけれど、今とても淋しい気持ちでいるのは分かる?」

「うん、分かる」

 

 

「らんまが淋しい時は、どうして欲しい?」

 

おれが淋しい時は・・・

 

 

 

「今度あかねちゃんに会う時までに考えておこうか」

「・・・うん。あかねとは今度いつ会えるの?」

 

「あかねちゃんがらんまに会いたいって思ってくれたら、かな」

「えー、それいつ?ずっと思ってくれなかったらどうすんだ?」

 

 

じれったいような困ったような顔で自分を見上げる娘に、思わず笑みが零れる。

 

 

 

「大丈夫よらんま」

 

「ほんとに?」

 

「あなたがそれだけあかねちゃんを大好きなんだもの。きっとあかねちゃんにも伝わってるわ」

 

 

 

 

らんまがあかねと再び会えたのは、それから半月が過ぎた頃だった。

 

 

 

「らんま」

 

あかねと会う直前に、いつもの公園に向かっていたのどかが言った。

 

 

 

「あかねちゃんね。お話がねちょっと出来ないみたいなの」

 

「え、なんで?会えないの?」

「ううん、そうじゃなくてね・・・」

 

のどかは、歯磨き粉を口の端につけたままのらんまの口をハンカチで拭った。

 

 

「あかねちゃんね、今声が出せないのよ」

「なんで?」

「人はすっごく悲しい事があると、声が出なくなっちゃうときがあるの」

 

 

「・・・ふーん」

 

「とにかくらんま、まずはあかねちゃんに会ってみましょうか」

「うん、会う」

 

その為にずっと考えてきたんだとらんまは思う。

 

 

 

 

公園の入り口のベンチに、あかねは少し年上らしき女の子と二人で並んで座っていた。

 

 

「かすみちゃん、あかねちゃん」

「こんにちは、いつもあかねがお世話になってます」

 

 

かすみと呼ばれた少女は、少し大人びた様子でけれどおっとりとお辞儀をする。

あかねはそのかすみに手を繋がれて、スケッチブックをもっていた。

 

 

「あかねっ!ひ、久しぶりだなっ」

 

久しぶりに会うせいか、緊張して声が上ずる。

あかねはただにこりと笑う。

 

 

「あなたがらんまちゃんね」

 

 

かすみに柔らかい笑顔を向けられる。やはりその面立ちはどこかあかねと似ていた。

 

 

「あかねがあなたに会いたかったみたいなの。ね?あかね」

「え、ほ、ほんとにっ?」

 

こくりと頷いたあかねは、スケッチブックのページをめくった。

そこにはクレヨンで、大きな口をあけた女の子が半分のドーナツを食べようとしてる絵が描かれていた。

 

 

けして上手ではない不器用な絵ではあるが、その女の子はおさげ髪をしている。

 

 

 

「あ・・・これおれだ!」

 

あかねの絵を指さしたらんまは思わず嬉しくて叫んだ。

 

 

「やっぱりそうなのね。前にあかねかららんまちゃんとドーナツ半分こしたって聞いたことがあったから」

 

こくこくと小さく頷いて、あかねはかすみを見る。

 

 

「この絵をね何度もね、私に向かって指さしてたの。それで多分、あかねはらんまちゃんに会いたいのかしらって思って」

 

「あかね・・・おれに会いたかったの?」

 

 

真っ直ぐに自分を見るらんまに、あかねはにっこりとほほ笑んで頷く。

らんまはうれしくて、吸い込み過ぎた息が鼻から漏れる。

 

 

 

「奇遇だなっ!おれもお前に会いたかったんだっ」

 

 

 

『奇遇』と幼児が到底使いそうもない言葉が飛び出した事に、のどかとかすみは吹いてしまう。

 

 

 

 

「かーちゃん、ゴザちょーだい」

「はいはい。重いわよ?」

「平気だよっ。これくらい」

 

のどかに渡されたロール状にたたまれたゴザを片腕に軽々と抱えると、らんまはあかねの手を握って引っ張る。

 

「あかねっ!シロツメクサのとこいって遊ぼう!」

「転ばないでね」

 

「へーき!へーき!」

 

 

七月の昼前の公園は、もう夏と変わらない程に全身をじりじりと焼く。

 

向日葵がポケットにワンポイント刺繍されているサロペット姿の小麦色に日焼けしたらんまと、可愛いリボンの装飾の付いた小さな麦わら帽をしっかり被って、肩ひもがリボン状になっている白いフリルのミニワンピースを着た色白のあかねは、同じ女の子でありながらとても対称的に見えた。

 

 

 

けれど二人の手はしっかりと繋がれている。

 

 

らんまはいつものようにのどかがするように木陰の所にゴザを敷くと、サンダルを頬り投げるように脱いで裸足でその上に立った。

 

そうしてあかねを手招きする。

 

 

「あかねはここに座ってろ。ちゃんとお帽子はかぶってないとダメだぞ」

 

らんまは自分が帽子をかぶっていない事を棚にあげて、あかねに母のように告げる。

素直なあかねはこくりと頷いて、ひとつひとつ丁寧にサンダルを脱いだ。

 

「でな、おれが『いいよ』って言うまで、あかねはあっち向いてて」

 

 

らんまは自分の方とは反対の場所を指さした。

あかねは首を傾げて戸惑っている。

 

 

「かくれんぼと一緒だ。あかねはおれが『いいよ』って言うまであっち向いてて」

 

 

かくれんぼと一緒と言われて納得したのか、あかねはくるりと乱馬に背を向ける。

 

「よーし。そのままだかんな」

 

 

らんまはあかねが自分に背を向けている事をしっかり確認してから、気が付かれないようにゴザからそっと出た。

 

 

 

「・・・信じられないっ、私に嘘つくなんてっ」

「ウソじゃねえだろ。男が来ねえなんて言ってねえし」

 

商店街の雑踏の中で不機嫌そうに足早に歩くあかねの後ろを、らんまは追いながら言い返す。

隣に追いついたらんまを睨んで、あかねは怒りをあらわにする。

 

 

「しかも何なの偽装彼氏って!私が男嫌いなの、らんまだって知ってるでしょう?」

「でも東風先生の事は好きなんだから、本当の男嫌いとは違うだろ」

 

それを言ったら余計にあかねの怒りを煽ると知りながら、らんまはきっぱりと言い切った。

怒りで表情を強張らせたまま、あかねがぴたりと立ち止まる。

 

 

 

「私だって好きでそうなったわけじゃないもん!」

 

「だから、これ以上お前の見た目だけに惑わされて寄ってくるろくでもねえ男たちを近づけねえようにする為に、偽装彼氏作れって言ってんだよっ」

 

 

 

夏服の買い物に付き合って欲しいとあかねを誘い出して、昼食を取る為に入ったカフェで、らんまはあかねに一人の男子高生を紹介した。

 

 

らんまの通う道場の同期生のその男子は、背が高くて上品に美しい顔立ちをしている。

あかねの隣を並んで歩いても遜色がない相手が良かった。

 

説得力がない男では、きっと周りが納得してくれないからだ。

 

 

 

「須田淳です。よくらんまから話は聞いてます、よろしく天道さん」

「あ・・・はじめまして・・・」

 

 

あかねはただただ戸惑いながら挨拶を返している。

 

それも当然だろう。

これまであかねとどこかに一緒に出掛ける時に、男性を呼んだことなど一度もなかったからだ。

 

らんまは出来るだけ心掛けて、さらっと告げた。

 

 

「あかねさ、しばらくこいつの彼女になってみねえか?」

 

 

あかねは全く予想もしなかった言葉を受け止めたせいか、ぽかんとしていた。

そうして眉間にやんわりと皺が寄る。

 

 

「らんま・・・今、なんて?」

「だからこいつの彼女になってみねえかって言ったんだよ」

 

あかねの性格は知り尽くしてる。

変に隠して遠回しに何かを行えば、混乱して拒絶反応を起こす。

 

逆に最初にどんなに衝突しても、ずばっと本人に言った方が物事が通るのだ。

あかねは理不尽な事でもあまりにはっきりと押されると、つい譲ってしまう癖がある。

 

だからこそ今も、理不尽な理由で他の女生徒から嫌がらせを受けている事もどこかで受け入れてしまっているんだろう。

 

 

 

「こいつさ、格闘も結構強いんだよ。おれには負けるけど」

「お前ね、そういう一言いっつも余計なんだよ」

 

「い、いくら強くても、私は男性が・・・らんまだって知ってるでしょう?」

 

「分かってるよ。別に本当に付き合えってことじゃねえんだ。偽装だよ偽装」

「偽装?・・・なんでわざわざそんな」

 

「お前に彼氏が出来たと思えば余計な男も寄ってこねえし、校内で変な噂立てられたりする事もねえだろ」

 

「・・・・・・」

 

『変な噂』という所であかねは何かを思案するようだった。

 

 

 

「天道さん、急で驚いたと思うけど。安心して。おれきみに変な事したりしないし、偽装彼氏としてちゃんと、きみの身の安全は守るから」

 

さらりと爽やかに話す須田は、男性嫌いのあかねでも悪印象を持つような人物ではないだろう。

それでもあかねは釈然としない表情をして、段々と顔色を青くしていく。

それはらんまの胸を苦しくさせたが、だからと言って引く気はなかった。

 

 

「ごめ・・・ごめんなさい・・・ちょっと気分が・・・」

「大丈夫か?顔青いぞ」

 

ちらりと須田に目線を送ると、直ぐに察した様子であかねに穏やかに声を掛けた。

 

「じゃあおれはとりあえず今日は帰るね。天道さん、急でびっくりしただろう?驚かせてごめんね」

 

あかねに丁寧に挨拶をすると、須田はあっさりと退席した。

 

 

「すみません、グレープフルーツジュース」

 

らんまが気を利かせて店員に注文をするが、あかねはとにかく気持ちが逆立っている様でそんならんまを青い顔をしたまま睨む。

 

そうしてバッグの中から財布を取り出して千円札をテーブルの上に置くと、あかねはカフェを飛び出した。

 

ああ、最初の関門だ。

とらんまは思う。

そうしてあかねの後を追うために急いで会計のシートを手に取った。

 

 

 

二人並んで言い合いながら、商店街を抜ける。

 

「どうして偽装なんてそんな馬鹿みたいな事するの?どうして急にそんな事言ったの?」

 

あかねは先ほどとは打って変わって怒りで頬を紅潮させている。

 

「だから、おれがずっとあかねにひっついて守ってるわけにもいかねえだろ」

「・・・なんで?迷惑なの?」

 

「迷惑じゃねえけど・・・」

 

どんな言い方をしたらいいのか、分かってる。

分かってるからこそ、とても苦しい。

 

 

 

「何よ?ちゃんと正直に言ってよ」

 

 

そこで初めてあかねはらんまをまっすぐに見た。

 

「・・・おれたちもさー、高校生じゃん」

「・・・・・・」

 

「だからそろそろさあ、おれも彼氏でも作ろうかなー、なんて思ったり」

 

あかねは、そこでぴたりと立ち止まる。

 

 

 

「え・・・らんま・・・好きな人出来たの?」

 

「や、まだだけど、これから作ろうかなって話」

 

 

「それで・・・私が邪魔ってこと?」

「だから邪魔じゃねえよ。どっちに彼氏が出来ようとお前は親友だ。だろ?」

 

「・・・そうだよ」

 

 

らんまはそこでへへっと笑った。

嬉しそうに見えるように、心から親友だと思っているように。

 

 

「けどさ、おれら仲良すぎてずっとべったりだから、あかねにもおれにも、他の奴と付き合う隙がないだろ。男女に限らずだけど」

 

 

「私は別にいいもん。らんまだけで」

 

 

その言葉に涙腺が緩むくらい、鳥肌が立つくらいに身体が反応してぐらりと揺れた。

 

 

 

おれだってそうだ。

お前よりずっと強くそう思ってる。

 

 

「だからー、それでおれたちお互いこの年まで彼氏いねーんだろ。けっして見た目は悪くねー筈なのに、だ」

 

「その為に、私に偽装彼氏作って距離を置くって事?」

 

「そうだよ。お前が偽装でも男と付き合いたくないのは知ってるけど、おれがお前から離れたらどうなるかも分かってる。心配でおちおち彼氏も作ってらんねえ」

 

「・・・そっか」

 

「頼むあかねっ!おれに彼氏出来るまでの間だけでもいいから、なっ」

 

ぱんっと顔の前で両手を合わせて拝む。

 

「うん・・・わかった。いいよ」

 

その表情が淋しそうに陰って見えたのは、自惚れだろうか。

ただ今すぐ全部取り消してしまいたい衝動だけはぐっと堪えた。

 

 

「あいつ。須田さ、本当に安全な奴だから。お前に変な事したりしないし、必ず守るって約束してくれたから。安心していいぞ」

 

「うん、わかった」

 

あかねはそれ以上、何も言わなくなった。

怒りの気配も消えて、ただ静かに並んで歩いた。

 

 

「あっ!今こっち見ようとしたろっ!まだこっち向いたらダメだからな!向いたらあかねの反則負けだぞっ!」

 

 

幼いらんまは、耐えきれなくなって振り向こうとしたあかねにびしっと言った。

そうしながら一生懸命に地面を這いまわっている。

 

言われたあかねはびくりとして、振り返るのを諦める。

 

 

 

 

「二人とも・・・一体何してるのかしら」

 

ほんの数メートル離れた近くのベンチで、かすみとのどかは座っている。

 

「さあ、何かしら?でも待ち望んだ再会だからお邪魔は出来ないわね」

 

のどかの柔らかい言い方に、かすみはほほ笑む。

 

 

「あかねちゃんもだけれど、あなたはどう?」

「私は大丈夫です。色々やらなくちゃいけない事もたくさんあるし」

 

「そう。それは厄介だわね」

「え・・・?」

 

 

大丈夫だと告げたのに、意外な言葉が返ってきた事にかすみが驚く。

 

 

「おばさんね、こういう時の人様の『大丈夫』はあまり信じない質なのよ」

 

「・・・・・・」

 

「かと言って無用に立ち入るのも互いに疲れちゃうわね。どうしたものかしら」

 

「・・・おばさま」

 

 

 

「かすみちゃん、誰かの悪口や愚痴を言いたくなったら家にいらっしゃいな」

 

「でも私・・・」

 

「なければそれでいいのよ。でもあったら絶対にいらっしゃい。お友達のことじゃなくても、家族の悪口でもいいわ。悪口や愚痴は大歓迎」

 

 

そう言ったのどかはにやりと笑う。

かすみは遠くの重たい何かがひとつ外れたような気がして、釣られて笑った。

 

 

「よーーーーーし・・・これでよしっ・・・」

 

らんまは懸命に集中して何かをせかせかと行っていたが、すくっと立ち上がると、すっかり待ちわびているあかねに向かって言った。

 

「あかね、そのままこっち向かないで立って」

 

言われたあかねは、素直にすくっとゴザの上に立ち上がる。

 

らんまはあかねにゆっくり近寄っていくと、あかねのお帽子をそっと取る。

びっくりしたあかねは思わず振り返ってしまう。

 

代わりにらんまが持っていた綺麗なシロツメクサの花冠が、あかねの頭にすぽりと被せられた。

 

そうしてらんまは、あかねをじっと見る。

 

 

「やっぱあかねは白雪姫のお姫様みてえだな。めちゃくちゃ可愛い」

 

惚れ惚れとした表情のらんまを見て、あかねがとても嬉しそうにほほ笑む。

 

「あのな、おれさ。今日からお前の王子様になるから」

 

不思議そうに首を傾げるあかねの前で、らんまは跪く。

それは挿絵で見た時の目覚めた後の白雪姫に王子が跪くポーズの真似だった。

 

「うるわしき姫よ、どうかぼくの妻となって添い遂げてください」

 

らんまはこの日まで白雪姫の絵本を何度ものどかに読んでもらい、王子のセリフをすっかり暗記してきた。

 

そうしてあかねの左手を取るとその小さな薬指に、大きなシロツメクサをひとつ、その隣に四葉のクローバーをあしらった手作りの指輪を嵌める。

 

「これがわたくしとの婚約の証。幸福を呼ぶ指輪です」

 

とても綺麗に編まれた指輪に、あかねは自分の左手を見てうっとりとする。

 

「あかね姫の事はおれが一生お守りいたします。妻となってくれますか?」

 

跪いたらんまは真剣な顔であかねに訊ねる。

あかねはとても嬉しそうににっこりと頷いた。

 

 

 

「二人とも~、おばさまの作ってきてくれたお弁当食べましょう~、おいなりさんよ~」

 

かすみはゴザの上で交わされた約束事も知らずに、高貴な二人に向かって明るく声を掛けた。

 

「姫・・・おいなりさん食べに行こう」

 

らんまはそう言うと、すくっと立ち上がってサンダルを履いた。

そうしてサンダルを履き終えたあかねの手を取ると、ベンチに座る二人の方に向かって行く。

 

あかねの声が出るようになったと聞いたのは、それから数日後の事だった。

 

 

 

終わり。


・あとがき・

幼馴染というのは同じテーマですが、男乱馬と女らんまでは距離感も接し方も変わるなあと不思議な気持ちで書いて居ます。

同時進行すると気分を変えるのが大変で、少しこっちが停滞していますがこちらも楽しんで書いていきたいです。